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2012年6月19日

血便の出る病気

便の中に血液が混じって排出される、いわゆる血便というのは目に見えない体の内部からの出血なので体にとって大変なことです。これは患者や家族に危機感をおぼえさせる症状で、事実、生命を左右する場合もあります。一方、単なる痔からの出血と思い込み、詳しい検査を受けずにいて重大な病気の発見を遅らせてしまうという残念なこともあります。

口から肛門にいたる消化管のどの部分の疾患でも、出血すると血便となって現れます。胃、十二指腸等上部消化管から出血した場合には、コールタールのような黒い色の便となります。大腸、肛門等下部消化管からの出血では、鮮やかな赤い色をしています。

血便を見たとき注意することは、血便が黒いか赤いか、量は多いか少ないか、赤い色の場合血液と一緒に粘液が混ざっているか、また便の表面に血液が付着しているだけか、それとも便と血液がごちゃ混ぜになっているか、更に血液だけが飛び散るように出るのか等よく観察して医師に報告することが大切です。

黒い便の出る上部消化管出血で一番多いのは、胃・十二指腸潰瘍です。消化管出血のおよそ50~60%はこの潰瘍からの出血です。特に十二指腸潰瘍の場合には、他の症状に先駆けて黒い便で始まることも少なくありません。

便をみて形のある場合でも、肉眼的に黒いと分かるときは、100~200mlの出血があったことを示しています。3日以上このような便が続いている時は、1000ml以上の出血があったと言えます。1000mlといえば循環血液量の20%に当たり、一見元気そうに見えてもすぐショックになる状態です。手のひらを強く伸展させてみると、手のひらの線の赤みが消えています。更に出血が多く皮膚が冷たくなって冷や汗をかき、明らかにショック状態になった時は、2000mlの血液が失われています。一刻も早く医師の治療を受けねばなりません。

医師はこの様な患者が運ばれてくると、まず出血量はどの位かを判断し出血性ショックの迅速な治療を行います。次に出血部位を探すために内視鏡検査を行います。胃潰瘍から出血している状態をファイバースコープで見ると新しく出てきた血液は赤いのですが、少し離れたところは胃液の塩酸のため黒くかわっています。これが黒い便となって現われるのです。

赤い色の血便の出る病気について言うと、粘血便とか血性下痢とかがありますが、腹痛を伴なって血便の出るものに潰瘍性大腸炎と出血性大腸炎があります。

潰瘍性大腸炎は、大腸特に直腸の粘膜に一面炎症がおき、粘膜が剥げ落ち無数のただれや潰瘍が出来る病気です。原因は不明ですが、自己免疫が関係していると言われています。長い年月一進一退の状態が続くことが少なくありません。若い人に多いので根気よく治療することが大事です。このときの血便は血液と粘液、ときには膿汁の混ざった下痢便となります。診断には大腸内視鏡検査やX線検査が必要です。治療は気長に服薬を続け、また定期的な診察を受け病状の移り変わりを見ることが大切です。

出血性大腸炎は、感染症で抗生物質を服用した後などに、激しい腹痛と、20~30回という頻回の血性下痢便が現れる病気です。最近多くみられるようになり注目されています。原因となっている抗生物質を中止して、輸液を行えば短期間のうちに治癒します。この点が潰瘍性大腸炎と異なります。

大腸の病気では、痛みよりもまず血便が主な症状のものとしては、大腸癌があります。これは最近大変増加してきました。現在、消化器癌の中での死亡率は胃癌に次いで2位です。大腸癌増加の原因としては、日本人の食生活の欧米化、つまり動物性脂肪の摂取量の増加と食物繊維の減少による腸内細菌叢の変化によって、癌発生が促進されると推定されています。

大腸癌は、発生部位によって臨床症状に差が見られます。右側の結腸では、腸管が広く腸内容が液状で、潰瘍型の癌が多いので症状が現れにくくしこりを触れたり血便を見て初めて医師を訪れることがあります。左側の結腸では、腸内容が固形化してくるので、便通異常を訴えてきます。直腸癌では、出血が一番の症状です。この場合の出血は、新鮮血で粘液と共に便の表面に付着するか、または便に混じって見られます。

早期の大腸癌では、肉眼的に血便が認められない時期に潜血反応で出血を確認して早期診断します。一般的に言って、出血は大腸癌に初めて現れる症状です。だから私達は、毎日どんな便が出たかを見る習慣をつけることが大切です。大腸癌の中でも一番多いのは、S字状結腸、直腸の癌です。直腸癌の80~90%は指で触れることの出来る部位に発生します。診断には内視鏡やX線検査は是非必要ですが、血便に気がついたらまず医師に指を肛門に入れて診てもらうことが極めて大切です。

赤い血便の70~80%を占めているのは痔です。今も昔もポピュラーな疾患であり、痔で悩んでいる人は大変多いものです。中年を過ぎれば、殆どの人は程度の差こそあれ痔を持っているものとみて差し支えありません。排便という日常欠かせない動作を行う肛門が不快であることは、生活に非常な障害となります。

痔の種類には、外痔核、内痔核、痔裂、肛門周囲膿瘍から移行する痔瘻があります。血便を来たすものは内痔核と痔裂です。内痔核には痛みはありませんが、痔裂には痛みが有りますので容易に区別出来ます。痔出血の際は大腸癌がないという除外診断が必要です。

内痔核というのは、直腸下部及び肛門管壁の静脈瘤がその本体です。程度により4段階に分けられます。

 第1度 排便時に出血するだけ
 第2度 排便時にイボが出るが、終われば自然に肛門内に戻るもの
 第3度 指で押し込まなければイボが戻らないもの
 第4度 イボが出たままのもの

3度、4度となると手術が必要となります。痔が悪化しないための肛門衛生として次の事柄が大事です。

 1) 肛門を清潔にする
 2) 便秘、下痢を避ける
 3) トイレは、りきまず5分以内に
 4) 腰を冷やさない
 5) 長時間同じ姿勢はよくない
 6) 酒類、強い香辛料などの刺激物を避ける

今まで痔疾患は直接生命に関係ないという安易感から軽く見られがちでしたが、日常生活に影響を及ぼしますし、また大腸癌との鑑別という点で大事な疾患です。

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