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肛門外科

便秘の話

日本人の約半数は便秘を病気と思っていないようですが、便秘は治療が必要な病気です。そもそも便秘とはどのような状態のことを言うのでしょうか?

✻ 排便の頻度が週に2-3回しか出ない。以前より回数が減った。
✻ 便の状態が硬い。水分が少ない。
✻ 排便時に強くいきまないと出ない。時間がかかる。
✻ 排便後の気分が便が残っている感じがする。すっきりしない。

これらのいくつもの要素が組み合わさって「便秘」と感じるわけです。便秘は単に便が長い期間出ない事と捉えがちです。しかし、排便間隔は個人差が大きく、3―4日に一度でもすっきりとした気持ちの良い排便があるならば、便秘と考える必要はありません。逆に毎日排便があっても、便が硬い・強くいきまないと出ない・排便の後に便が残っている感じがするなどの、不快な症状、苦しい症状があり日常生活に支障がある場合には便秘症という病気の可能性があります。

便秘の種類と原因

便秘には一過性の便秘と慢性的な便秘があります。
一過性の便秘は旅行などによる一時的な生活習慣や環境の変化、緊張やストレスから起こるもので、時間が経つとその多くは自然に良くなります。
慢性的な便秘は大きく二つに分けられます。

 

  • 腸が狭くなったり塞がったりしている場合

 

 

    1. 大腸癌、ポリープなどの腫瘍やクローン病・潰瘍性大腸炎・繰り返す大腸憩室炎などの炎症性疾患、手術後の癒着などにより腸が狭くなったり塞がったりした結果便秘が起こる場合があります。

 

  • 腸や肛門がうまく働かない場合

 

 

    1. (1) 便が腸をなかなか通過しない場合

 

    1. 腸の運動機能が低下したり、不規則になったりする事によって便が腸を通過するのに時間がかかります。糖尿病などの全身性の病気や抗うつ剤などの薬剤によって便秘が起こることもあります。

 

    1. (2) 便が肛門近くまできているにもかかわらず、便がうまく排出できない場合

 

    便意を繰り返し我慢していると、肛門の筋肉がうまくゆるまなくなり出にくくなってしまうため、注意が必要です。

性・年齢階級別別にみた便秘の有訴者率(fig.1)

便秘の患者さんは若い女性に多いというイメージ通り、50代までは症状を訴える女性の割合が男性の倍以上になっています。
その原因としては、女性は男性に比べて出産するため骨盤が広いという身体的特徴があります。骨盤が広いと骨盤内に大腸が落ち込みやすくなり、落ち込んだ腸は曲がりが強く腸内の便の通過がしづらくなるのです。また女性は男性よりも腹筋や横隔膜の筋力が弱いために便を排出する力が全体的に弱いことも、女性に便秘が多い原因のひとつといわれています。また、ホルモンによる作用も関係していると言われています。月経の前や妊娠初期に便秘になりやすい傾向があります。これは黄体ホルモンが原因しており、排卵に備えて黄体ホルモンが体に水分や塩分を溜め込むように指示を出すのと、大腸の壁から便の水分が吸収されるため、便が硬くなって出にくくなるのです。また妊娠時には子宮などを緊張させて、腸の動きを悪くさせる作用もあります。
ホルモンバランス以外でも「冷え」「ダイエット」「運動不足」などが原因となります。
しかし、年齢が高くなるにつれて男性患者が急激に増加。80代になると男女差がなくなり、いずれも10人に一人が便秘に悩んでいる。「急速な高齢化の進行で今後、便秘になる人が確実に増加する」と考えられます。(fig.1)

 便秘は寿命を縮める病気です

そんな便秘を軽く見る方もいますが、「便秘は寿命を縮める」との報告が出ています。便秘の有無による生存率を米国で15年間にわたって比較した研究によると、生存率に約10%の差が出たものもあります(fig,2)。往年のロックスター、エルビス・プレスリーはトイレで心臓発作を起こして42歳で亡くなったとされていますが、「便秘だったため、トイレで過度にいきんだのが心臓発作の要因だったと報じられています。」日本でも高齢者がトイレでいきんで血圧が上がり、上手に呼吸ができずに酸欠状態に陥って救急搬送、死亡することが後を絶ちません。一般的に 排便時にいきむ時、血圧は30−60cmHg 上昇すると言われています。
普段の血圧が140cmHgの方が便秘でいきんだ場合 血圧が200cmHgを超える可能性があり、その時に脳出血が発症する可能性は充分考えられます。
また 便が長時間体内に停滞しているとその老廃物から出る、毒素が再吸収され腎障害を起こし生命予後に関係するとの報告もあります。便秘は簡単にいうと「腐ったものを腸内にためている」ことです。腸内に悪玉菌が増えて有害物質がたまり、身体へ様々な悪影響を及ぼします。

便秘の治療 ―生活改善―

 

  • 適度な運動の実施

 

 

ウオーキングなど日頃から身体を動かすことは自律神経のバランスを整え、腸管の動きを調節する働きがあるので、1日30分以上を目標に実施するようにします。また便秘が女性に多い理由として腹筋が弱く十分な腹圧が得られないことも挙げられられています。

    1. 食生活の改善

 

1日3回規則正しい食事(特に朝食)をとることが重要です。
食物繊維の摂取で便量の増加を、水分の摂取で便の水分量の増加を図ります。腸内のビフィズス菌が減少すると、腸内で異常発酵が起こって便秘になるため、ビフィズス菌の増殖を促進させるオリゴ糖などの摂取も効果的です。

    1. 生活習慣の改善

 

規則的な排便習慣の確立が重要です。便意の有無にかかわらず、毎朝食後にトイレで排便を試みる様にします。便意を感じたら我慢しないで早く排便することや、規則的な生活を送ることも重要です。

便秘の治療 ―薬による治療―

 

  • 小腸の持つ水分分泌機能を高め、便をやわらかくする薬

 

 

    1. ルビプロストン(アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)、エロビキシバット(グーフィス)

 

  • 浸透圧や界面活性の原理で、便の水分量を増やし、やわらかくする薬

 

 

    1. 酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール(モビコール)、ジオクチルソジウムスルホサクシネート

 

  • 便中の水分を吸収して便をやわらかくし、かつ便の量を増やす薬

 

 

    1. カルボキシメチルセルロース、ポリカルボフィルカルシウム

 

  • 腸を刺激して排便を促す薬

 

 

    1. センナ、センノシド、ダイオウ、アロエ

 

    ビコスルファートナトリウム(ラキソベロン)、ビサコジル

便秘治療薬の注意点

市販の便秘症治療薬の多くは、腸を直接刺激して排便を促す薬(刺激性下剤)の成分が含まれていますが、これを長期に使用することで服用する量が次第に増えたり、かえって便秘の症状が悪くなる可能性があるとする報告もあります。また、刺激性下剤を長期に使用することで、大腸粘膜が黒褐色になる「大腸メラノーシス」になることがあります。
市販の便秘症治療薬を含め、刺激性下剤を使用する際は、頓用使用を原則とし用法、用量を守り効果の有無によっては医師の診察を受けましょう。